みなさんこんばんは。チアパス州の山奥の小さな町、サンクリに沈没して2か月目の放浪家族です。
ありがたいことに仕事が途切れなく入ってきて毎日忙しくしているのですが、もうこの町の居心地が良すぎて本気で移住してきちゃおうかな。なーんて。
住めば住むほど大好きになるメキシコは、沈没にもってこいすぎてほんとに危険。

マヤ先住民の村、サン・ファン・チャムラ(San Juan Chamula)

さて、サンクリに滞在中、ご近所のサン・ファン・チャムラという先住民の村へ行ってきました。
「チャムラ」と書くと「田村」みたいな発音だと思いがちですが、「チャムーラ」と、ㇺにアクセントを置くのが正解。
サンクリから10キロほどのチャムラは、サンクリ市内からコレクティボ(乗り合いバス)やタクシーに乗って日帰りで簡単に行けるので観光客にも人気のスポットです。
移動費はコレクティボだと20ペソ(150円)くらい。
サン・ファン・チャムラってどんな村?

サン・ファン・チャムラはツォツィルをはじめとするマヤ系先住民が住む村です。
住民のほとんどがツォツィル語を話すチャムラでは、村に入ると全くといっていいほどスペイン語は聞こえてきません。
30年ほど前まで村の伝統を守るためよそ者を歓迎していなかったようですが、サンクリなど周辺の観光業の発展によりチャムラにも観光客が押し寄せるようになりました。
現在は、観光客向けの土産物がマーケットに並び、村の紹介をするガイド付きのツアーもあったりとかなりオープンになっているみたい。
とはいえ、チャムラはまだまだ閉鎖的な村です。
村独自の自治体があり、村の男性により市民選挙が行われます。
村ではメキシコ合衆国の法律が適用されないため、もし重大な犯罪が起こった場合は村のリーダーや警察がリンチを行うこともあるんだとか。
村の犯罪率はとても低いということだけど、リンチが怖いからではないのか…。
サン・ファン・チャムラのただひとつの見どころ

ずばり、教会です。
普通のキリスト教の教会を想像していくとかなり度肝を抜かれるチャムラのシンボル、サン・ファン・バウティスタ教会 (the Iglesia de San Juan Bautista)。
ここでは、一般的な教会でやるような司教が説教をしたり告白を聞いたりということは行われません。
スペインの侵略以降、もともと持っていたマヤの信仰とカトリックが融合した独自の宗教を持つチャムラの教会では、聖書は使われないし、結婚式やお葬式も行われません。
じゃあ教会を何に使っているの?
病気やケガ、体の不調を治す場として、お祈りをしたり生贄をささげたりするのに使われているんだそうです。
マヤ先住民の村では今でもシャーマンが大きな力を持っていて、体の不調は悪いスピリットがもたらすものだと信じられています。
そのため、教会の中にある鏡に悪を映したり、炭酸飲料を飲んでげっぷを出すことで体内の悪い気を出すことができると言われています。
では、そんな一風変わったサンファン教会に足を踏み入れてみましょう!
チャムラのサン・ファン・バウティスタ教会に入るときの注意点

写真・ビデオはダメ、絶対
教会の中の撮影は絶対に絶対に禁止です。
もし盗撮でもしようもんなら、教会から退場もしくは罰金を命じられることも。
というか、そんなことをされなくても宗教信仰の場のルールは尊重されるべきだし自分たちがよそ者だということを認識するべき。
教会入り口にルールがでかでかと書いてあるので「知らなかった」では済みません。
とかいいつつ、私も教会の中でやらかしてしまった奴なのですが…。その詳細は後ほど。
マヤ先住民に限らず、昔からの信仰を守る人たちは写真を撮られることを嫌う傾向にあります。
日本でも欧米からカメラが入ってきたころ、写真を撮られると魂が抜かれるいう迷信が信じられていましたよね。
ここ、チャムラでも写真を撮られるのを嫌がる人が多いので、撮影には十分注意しましょう。
帽子を脱ぐ・サングラスを外す
チャムラだけでなく、どの教会に入るときにも帽子を脱ぐのがマナーです。
チャムラの教会では、帽子をかぶっていたら係の人(?)が声をかけてくれるので、ちゃんと従いましょう。
携帯の通話禁止
これも一般常識ですね。
教会の中では電話の音も鳴らないようにしておきましょう。
いざチャムラの教会の中へ

注意事項も確認したところで、早速中に入ってみましょう。
教会の横にあるチケット売り場でチケットを買います。一人25ペソでした。(2020年)
行く前にチャムラの教会の中についてその状況を説明したブログとかを読んでいたのですが、ろうそくだとか生贄だとか書いてあって、ものすっごい黒魔術的なイメージ。
なんかこわいなぁ~。
小さな入り口から恐る恐る中に入ってみると…
上のほうに窓がたくさんあるせいか中は思ったよりも明るい。
もっと暗くて禍々しい感じを想像していたので(失礼)ちょっと安心。
教会の中に長椅子や柱はなく、普通の教会とはかなり印象が違います。
タイル敷きの床には松の葉が敷き詰められていて、めちゃくちゃ滑りやすい。
そしてところどころ松葉をよけて、日本で仏壇にあげるような縦長の白いろうそくが直接床に何本も立てられています。
…いや、危なくね?
松葉でコントみたいに滑って転んでろうそく倒れたらこの教会燃えちゃうよね?
って心配しちゃうくらいたくさん火のついたろうそくがありました。
緑は豊作・白はたくさんの食べ物・オレンジは平穏・黒は悪からの防御
その他にも、両サイドにある大きな台の上にはガラスに入った何百ものろうそくがメラメラ火を燃やしています。
教会の中を見渡すと…
床に立てたろうそくの前に座って何やらお祈りをしているおばあちゃん。
煙がモクモク出てるお香の入った筒(?)を振り回してる女性。
みんな思い思いに神にお祈りをしているようです。
とっても真剣なので、信仰もなんにも持ってない私のような者が興味本位で踏み入れてはいけない場所に来てしまったような、なんだか後ろめたい気持ちになりました。
ろうそくの前で跪いていた女性が唱える抑揚のないお祈りの響きがなんだか聞き覚えがあるような、懐かしいような。
あ、お経に似てるんだ!
ずっと聞いてたらなんか南無妙法蓮華経に聞こえてくるから不思議。
全く違う宗教なのに。
中には、話に聞いていた通りニワトリを生贄として持ってきている家族もいました。
そしてちょうど、男の人がニワトリを絞めているところを目撃!
おお、すげえ、ほんとに教会の中で生贄を殺してる…!
ちなみに、生贄になったニワトリはのちに女性が調理して家族で食べるそうですよ。
あまりジロジロ見るのも失礼なので、教会の後ろの方へ移動して見学していたら、
村のおじさんが二人、なんかすごい勢いで私の方に近づいてきた。
その距離間、コロナ禍じゃなくても「ソーシャルディスタンスお願いします!」って言いたくなる近さ。
この日、一眼レフを持っていったんだけどカメラバッグを忘れたので「私写真撮ってませんよー」ってアピールのために教会の中ではカメラを斜めにかけて後ろに回していました。
でも村のおじさんたち、そのカメラを鼻息がかかりそうな距離で覗き込んで現地語でめっちゃなんか話し合ってる。
そんでこのとき、私ちょっと頭がお花畑になってて。
ああ、そっかそっか、カメラの機種知りたいんでしょ?
ってなんでか思っちゃったよね。
写真好きな人ならわかってもらえると思うんだけどね。
人の持ってるカメラとか、レンズって気になるよね?(え、ならない?)
これね、ニコン。ニコンだよ。ナイコーン(英語ではNikonはナイコンって発音する)
ってでもおっさんたち全然聞いてねえ。
だからさ、ああ、おっさんカメラの機種じゃなくてレンズの種類でも知りたいのかな?って思って。
いやそんなわけねえし!!!
レンズの倍率スペイン語で考えてたとき、英語が話せる救世主が登場。
たぶんどっかのツアーのガイドさん、私のトンチンカンさを見かねて助けに来てくれました。
「あのね、この人たち、カメラの電源がオンになってないかチェックしてるんだよ。」って。
…‥‥ああ~!そゆことね!
いや、電源切ってあるはずだけどー?ってカメラ見たら・・・オンになってた!
「こっそり写真撮ってるんじゃないかって疑ってるから、最後に撮った写真この人たちに見せてあげて。」と救世主。
だから最後に撮った写真を出してみたら、
教会の前に座ってるおばあさんの写真。
これも隠し撮りっぽいし怒られたりして…。ってびくびくの私。
でもおっさんたちその写真見て、はいはいオッケー、疑ってごめんね~ってニコニコして去ってった。(いや、なんて言ってたかはわからんけど)
ちなみにこれがカメラにあった最後の写真です☟

しっかしまじで怖かった。
写真は撮ってなかったとはいえ、電源が入ってるだけでもこの騒ぎ。
てか医療をシャーマンに頼ってる村のおっちゃんが、私のカメラの機種なんか気にするわけがないよねって!!!
雨期のサンクリで脳みそにカビが生えちゃったのかな、わたし。
こんな私の頭の中身もチャムラの教会で治してもらえるかな…?
みんな、チャムラの教会ではカメラはバッグの中にしまおうね!
チャムラのサンデーマーケット

日曜日はチャムラのマーケットの日!!
教会周辺はお店がたくさん出ていて市場好きとしてはワクワクしますね~。

このニワトリ、まさか生贄用かな…?


教会の横にあるお店で揚げたてチュロスをほおばっていたら、なにやら聞こえてくるパレードのような音楽。
道の向こうから白と黒の羊毛でできたふわふわベストの民族衣装に身を包んだ男たちが、楽器を鳴らしながら歩いてきて、教会の中へ消えて行きました。

リンゴン鳴り響く教会の鐘の音と、運動会の朝のような連発する花火。日曜日のチャムラはとっても賑やかなんです。
チャムラに来るなら日曜日が絶対おすすめ!
ちなみに、水曜日は祈禱儀式(シャーマンのお祈りとか)をするべきではない日とされていて週で一番静かな日なんだとか。
チャムラには他の町では売っていないような民族衣装などがあるし、土産物を見て歩くのも楽しい。
マヤのツォツィル語が主として話されていますが、お店を出している人はスペイン語や英語ができるのでご安心を。
しかしこんな素敵なワンピースを日本で着る勇気がある人はどれくらいいるだろう。

車に戻る途中、民族衣装を着た男性の集団とすれ違いました。
お酒の入ったカップを手にかなりご機嫌な様子。
おそらく、ポッシュ(Pox)と呼ばれるサトウキビやコーンを原料に作られたお酒を飲んでいるのでしょう。
このポッシュというお酒はチャムラの宗教の儀式に欠かせないもので、それも一因になって村の男性のアルコール依存症が問題になっているんだとか。
マヤ先住民の間で宗教議式に使われるポッシュは、チアパスでは人気のお酒です。
サンクリにもポッシュバーがあって、いろんなポッシュを試飲することができます。
チャムラの知られざる闇

マヤの風習や言語を今も大切に守るチャムラの人々。
サンクリに滞在している間、チアパスやマヤの先住民についていろいろと調べていたら、先住民族が集まるチャムラの問題が見えてきました。
追放されるチャムラの村人たち

スペインに統治された後の現在もマヤ時代の信仰を持つチャムラの人たちの宗教は、一応カトリックということになります。
しかしプロテスタントが中南米に広がったことで、チャムラ村からもカトリックの教えに疑問を持ちプロテスタントや他の宗教に改宗する人がでてきました。
信仰をとても大切にするチャムラの村人にとって改宗は、タブー。
村から追放される要因となります。
そのほか、宗教の儀式としてお酒を飲むのを断ったり、お祭りに献金しなかったりしても追放の理由になるそうです。
村のリーダーから追放された家族は、逮捕、拷問、レイプなどの暴力を受けることもあり、一切の財産(畑などの土地や家畜)をはく奪されます。
先住民独特の自治体のため国が介入することが難しく、たとえ暴力があっても国の警察が動くのはまれなんだとか。
国の支援団体が介入して追放された村人がチャムラに戻った例もありますが、村に戻った後も嫌がらせが続いたり、必ずしも元の状態に戻るわけではありません。
チャムラや周辺の村から追放された先住民たちは、すべての財産を奪われ仕方なくサンクリのはずれにトタン屋根の小さな小屋を建て、観光客に民芸品やガムやキャンディーの菓子類を売って生計をたてています。
一日の収入が200円に満たないことも珍しくないそうです。
道路も舗装されていないそのエリアは、El Cinturón de Miseria (Misery Belt・日本語では’’みじめな、哀れな一帯’’という意味)と呼ばれ、村から追放された家族がそこに行きつくのです。
先住民族の女性をサポートする

夕方になると、先住民女性たちがサンクリの大聖堂前の広場に民芸品をもって集まります。
その多くは周辺の村から追放され夫が出稼ぎに出ている女性やシングルマザーだそうです。
女性たちはお互いの子供をみたりして、協力し合って生活しています。
サンクリ一帯では、観光業が発展したことで女性が工芸品を作って売り始めて経済力を持つようになり、中には稼ぎもせず酔っぱらって家で命令ばかりする夫を追い出す女性も増えているんだとか。
やはり、経済力が自立のカギとなるようです。
2020年3月8日、国際女性デー(International Women’s Day)に女性の権利を訴えるためメキシコで大規模なデモがありました。
女性や子供への家庭内暴力や、女性が被害者になる犯罪が後を絶たず、それに対する抗議のため何万人もの女性がその日デモに参加。女性の権利について声高に訴えました。
これは決して先住民女性だけの問題ではありません。
ましてやメキシコだけの問題でもありません。
女性が弱者になる世の中を、私たち女性が変えて行かなくてはならないんです。
頑張れ!世界の女性たち!!
と、チャムラについて書いていたはずなのに、この脱線っぷり。すいません。熱くなりました。
観光地として海外から訪れる人が後を絶たない人気のチャムラ。
その歴史や文化の重要性はもちろん伝えられ守られるべきですが、その裏で格差や貧困、暴力やアイデンティティーの消失で苦しんでいる先住民がいることも忘れてはいけない事実ですね。
真面目にまとまったところで、それではまた!

チャムラの村人追放についていろんなウェブサイトをチェックしたので全てではないですが、特に興味深かったものを以下に載せておきます(英語)
20年も前の古い情報ばかりですが、興味がある方はどうぞ読んでみてください。
source

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